乳がんは、日本では女性のなかで一番多くの方がかかるがんです。2020年のデータでは、新しく乳がんになる人は年間約9.2万人です。一方、乳がんで亡くなる人は年間約1.6万人であり、女性のがんの部位別死亡数では第5位です。1)
比較的、治療がよく効き、治る人が多いがんだと言えます。乳がんは、母乳を作るための「乳腺(にゅうせん)」から発生します。多くは、母乳を乳首まで通してくる管である「乳管(にゅうかん)」をつくっている内側の細胞から発生するので、「乳管がん」とよばれています。少し珍しいものでは「粘液(ねんえき)がん」や「小葉(しょうよう)がん」などの分類があります。乳管の細胞から発生した乳管がんは、大きくなる過程で、乳管を破ってまわりの脂肪や血管のあるところに出てくると、やがて硬いしこりとして感じられるようになります。これを浸潤(しんじゅん)といいます(浸潤性乳管がん)。なかには、乳管をやぶらず、這うように広がる成分もあり、その成分ばかりの乳管がんは非浸潤(ひしんじゅん)性乳管がんといいます。浸潤がんに、非浸潤がんの成分が同時に存在していることもあります。乳がんは、進行していくとわきの下のリンパ節に流れていき、棲みつくことがあります。これをリンパ節転てん移い と言います。そこでがん細胞は増殖し、また次のリンパ節、さらに次のリンパ節へとひろがり、いずれ骨や肝臓、肺など重要な臓器に広がる遠えん隔かく転てん移い を起こすことで、徐々に患者さんの生きるための力を奪い取っていくようになります。
1)国立がん研究センター がん統計「がん情報サービス」https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/14_breast.html#anchor1
現在乳がんの手術は、乳がんのある側の乳房のふくらみを取ってしまう「乳房全切除術(にゅうぼうぜんせつじょじゅつ)」と、乳がんのある部分とその周りの組織を切除することで、乳房のふくらみは取り切ってしまわない「乳房部分切除術(にゅうぼうぶぶんせつじょじゅつ)」があります。乳房部分切除術は、従来は残した乳房にまた乳がんが発生しやすいものでしたが、1970年代から2000年代にかけて行われたいくつかの研究から、残した乳房に放射線治療を行うことで、乳房全切除術と同程度の成績になると分かり、広まっていきました。現在では、乳房部分切除術は乳がんの手術の40%以上を占めています。2)
乳房部分切除術では、場合によっては非常にきれいな状態の乳房を残せることがある反面、ゆがみやへこみなど が気になる場合もあります。患者さんの体形や乳房の大きさ、乳がんのできた部位や大きさなどでかなりの違いがあるのです。
2)全国乳がん患者登録調査報告 第51号 2020年次症例 日本乳癌学会
2023年12月から、乳がんの新しい治療法である「ラジオ波焼灼療法(らじおはしょうしゃくりょうほう)」(RFA(アールエフエー))が保険でできるようになりました。これは、手術で乳房を切り取るのではなく、長い針の形の電極をがんの内部に挿入し、ラジオ波帯(約472KHz)の電流を流すことで生じる熱によって、がんとその周囲の組織を焼き殺す治療法です。いわゆる「切らない」乳がん治療で、日本乳癌学会が主導し372人を対象に臨床試験を行った結果、術後5年の成績が乳房部分切除術とかわらなかったことから、新たな治療法として保険が適用されることとなりました。しかし、乳房部分切除術ができる人ならだれでもRFAができるわけではありません。• がんのサイズが15㎜以下である• しこりが乳房に1つしかない(同じ側の乳房に複数ない)• わきの下のリンパ節にがんの転移がないと考えられる• がんが皮膚に近すぎない• 種類が一般的な「浸潤性乳管がん」 あるいは「非浸潤性乳管がん」である• RFA前に乳がんに対する薬の治療をしていないなどの条件すべてに該当しなければ行うことができません。RFAのメリットは、• 乳房に傷が残りにくい(診断時の針生検(はりせいけん)という検査と同程度)• 乳房の変形が少ない• 手術時間が短いなどであり、逆にデメリットは、• 顕微鏡の検査で「がんが取り切れているか」を知ることができない• 顕微鏡の検査でがんの全体像を見た詳しい情報が得られないなどです。特徴的な合併症には、皮膚のやけどがあり、もしやけどが起こるとなかなか治らないといわれています。また、RFAでの治療に際しては、放射線治療を必ず受けること、放射線治療3か月後にがんが乳房に残っていないか針生検を受けること、もしがんが乳房に残っていれば手術が必要となることを、あらかじめ理解しておく必要があります。なお、薬による治療は、手術による場合と同様に、必要に応じて行います。当院では、2024年10月に第一例目のRFAを行いました。これは、京滋で初めての事例でした。がんの焼灼(しょうしゃく)時間はわずか7分弱であり、安全に行うことができました。